ピックアップレーサー記者コラム

 「いい調整ができました。ファンのみなさんが応援してくれてうれしかったです!」。
笑顔でこう話したのは9月の宮島オールレディースを制した時の遠藤エミ。イン逃げを決め優勝した直後のコメントだ。
そして、「深井さんが(びわこG1周年記念で)優勝していたので、私もがんばろうと思いました」と言葉を足した。師と仰ぐ深井利寿の地元記念初Vを励みに戦った結果だったのだ。

 2022年3月の大村ボートレースクラシックで女子初のSGウイナーとなり時代を切り拓いたヒロインは、G1・G2ともに4回ずつ優勝している。G1はクイーンズクライマックス(2017年)とレディースチャンピオン(2021年・2023年・2024年)、G2はすべてレディースチャレンジカップ(2016年・2017年・2019年・2021年)である。

 2021年から昨年まで3年連続で女子賞金1位の座を獲得しているが、この8月に福岡で開催されたG1レディースチャンピオンを制した今年も現在トップ独走中。4年連続5回目(1回目は2017年)の栄誉獲得の可能性は高い。
戦いの舞台は地元びわこ。その地位を確固たるものにするG2シリーズとなることだろう。

 9月におこなわれた「開設72周年記念 G1びわこ大賞」は深井利寿の優勝で幕をおろした。1コースからコンマ08のスタートを決め、2012年6月の児島周年以来、自身2回目のG1優勝を飾っている。
「何より地元の記念を取れたことがうれしいです。最高の気分です!」とはレース直後のコメント。水面際に集まったファンから万雷の拍手を受けたウイニングランでは、満面の笑みをみせ、喜びと感謝の気持ちを表していた。

 その深井利寿の優勝から遅れること11分…。ボートレース宮島ではG3オールレディースの優勝戦が行われ、弟子の遠藤エミが1コースから逃げ、「師弟同日優勝」を果たしている。自身の表彰式直前に朗報に触れると「すごいですね。滋賀支部にいい流れが来てますね」と、はにかみながら語っていたのが印象的だった。

 この「びわこ大賞」優勝によって、来年3月の若松SGボートレースクラシックの出場権を手にしたが、「SGレースでまだ1着を取っていないので、次は勝ちたいです」と語っている。
先々が楽しみでならないが、まずこのシリーズに集中だ。落着きある確かなイン戦だけでなく、今年1月からの1着率が3割を超えているセンター戦にも注目したい。

 「100点のレースです。優出インタビューでスタートはハナを切ると言っていたので、そこだけ少し緊張しました。だた、クラシックの時より気持ちに余裕がありました。1マークも最高のターンができました」と素直な気持ちで語ったのは土屋智則。今年6月、ボートレース尼崎の「SG第34回グランドチャンピオン」を制した直後のコメントである。
賞金ランキングは10月2日時点で7位。平和島ボートレースクラシックでSG初優勝を飾った昨年に続き、2年連続グランプリ出場は確定的だ。

 ただ、昨年は一度はランクキングトップに立ったものの、最終的に12位でトライアルファーストに…。「守りに入ってしまいレースも消極的だった」と忸怩(じくじ)たる思いでいるのも事実。今年は何としても6位以上をクリアし、トライアルセカンドからの参戦とする決意でいる。

 そういう意味でも、「守る気持ち」はないだろう。このシリーズを含め、残り2カ月あまりを攻めるつもりでいるはずだが、元々さまざまな調整に取組み試行錯誤を続けてきたのが土屋智則。チャレンジャー精神は旺盛である。イン戦だけでなくコースも不問。特に5コースを得意としていることはしっかり覚えておきたい。

 2017年7月、片岡雅裕は涙を流していた。G1びわこ大賞を制し記念初Vを飾った表彰セレモニーでのことだ。「支えてくれた多くの人」への気持ちがこみ上げ言葉に詰まったのである。
師と仰いでいる秋山広一への感謝は深く、恩返しができたことへの安堵もあったことだろう。

 その後、2022年8月には浜名湖のボートレースメモリアルでSG初優勝。ここでも、「勝負の世界は苦しいです」と答え涙腺が緩んだ。なぜ苦しいのかと問われると、「負けるからだと思います」。勝ちたい気持ちが強いことの証明でもある。

 そして昨年11月、三国チャレンジカップで2つ目のSGタイトルを手にすることになる。
イン圧勝といえる優勝だったが、「平常心ではなかった…」と強いプレッシャーがかかっていたことを打ち明けている。あとは精神力しかないと、「絶対に勝つ!」と自らに言い聞かせていたのだ。

 2024年の優勝は2月の江戸川一般戦と8月の丸亀お盆レースのみだが、賞金ランキングは22位(10月2日現在)。丸亀ボートレースメモリアル優出4着をはじめ、唐津や宮島のG1優出が利いているのは事実。あとは、ここで勝ち切りグランプリ圏内に入るのみだ。

 次代を担う若手有望株を育成する制度に「スター候補選手」がある。
カテゴリーはふたつ。「トップルーキー」は登録6年以内のA1級のレーサーから勝率上位者を基本に、取り組み姿勢や実績、そして将来性に鑑み男女問わず15名以内が選ばれる。いわば全国区だ。
一方、「フレッシュルーキー」は登録5年以内の各レース場における推薦選手(各場2名ずつ)48名となっている。

 澤田尚也はその両方に選ばれてきた「期待の星」。選出過程は以下のとおりだ。
2023年 トップルーキー
2022年 トップルーキー
2021年 びわこフレッシュルーキー
2020年 びわこフレッシュルーキー
2019年 びわこフレッシュルーキー

 ボートレーサー養成所修了記念競走で優勝した121期生は、初1着も一番はじめ。デビュー1カ月後の地元びわこでまくり差しを決め水神祭を飾っている。

 少年時代、F1レーサーを目指しカートに熱中していた若者にとって、チャレンジ精神をぶつけられるボートレースの世界は可能性に満ちており、相応しい舞台。初優勝が「三国モーニング・スタートキング争奪戦」であったよう加速感あふれるスピード戦で正真正銘のスタートなる。

 「全体を見ることで自分が置かれている状況が分かると思います。社会の成り立ちを知れば、ボートレーサーがどうあるべきかを考えることにつながります」と語るのは長嶋万記。
いろいろな立場の人々が参画できる社会貢献の場をつくりたいと「一般社団法人ZERO」を設立。レースを離れても精力的な活動を展開。一方、日本財団が進めるアスリート連携プロジェクト「HEROs」のアンバサダーにも就いている。つまりボートレース界だけでなくスポーツ界を代表するアスリートである。

 そんな長嶋万記が心掛けているのが「バードアイ」。全体を俯瞰(ふかん)の目でとらえる視座である。
それは、ボートレースが社会の中でどういう存在意義を有し、ファンに対しいかにあるべきかを考えることにつながるばかりか、またレース展開力となって実戦で発揮されている。だからこそさばけるのだ。

 戦いの舞台びわこは、昨年5月の男女混合戦で男性5人を相手に2コース差しを決め優勝しており相性はいい。

 G2レースは2023年2月のレディースオールスター(蒲郡)と同年11月のレディースチャレンジカップ(三国)を制している長嶋万記。今度は男女混合のG2タイトルゲットだ。

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